the way i hear it, garry

オーストラリアの電子申告について、昔まとめたものを引っ張り出します。
今年のヴァージョンにアップデートしようとしているところですが、4年間でどう替わったかという形で提示するのありかなと思いまして。

はじめに

これは、オーストラリアの電子申告についての簡単な報告です。電子申告の普及がもっとも進んでいるといわれるオーストラリアですが、その歴史的背景、現状についての理解なくして単に有用性だけを論じることには均衡を失すると考えています。そこで、十分なものではないが、オーストラリアの税制、税務行政一般についての若干の知見と感想も付け加えることとします。

日本で税制を論じる場合に、これは実体法だ、これは手続法だ、あるいは、この判例の事案は事実認定が争われてる、あるいは、法律解釈が争われているというように切り分けられることが多いのですが、現実はすべてが一体となっているわけで、専門分野ごとに切り分けることは、全体像を見過ごすことにつながるのではないかというのが私に基本的な考え方の姿勢です。

ですからFrank Zappa とオーストラリアの電子申告は、少なくとも私の中では同列に論じるということになるわけで、たいていの人はついていけないということになるわけです。
自分で一番どうしようもないやつだと感じていますから。


Ⅰ.オーストラリアの電子申告(e-tax)の概要

1.e-taxとは
オーストラリアでは、電子申告はe-taxと呼ばれています。日本と同じですね。
そして、e-tax に関する基本的な情報の入手および、そのソフトウェアのダウンロードはオーストラリア国税庁(The Australia Taxation Office, 以下、ATO)のホームページ上から簡単にできます。ATOによれば、2003年度において、800,000人以上の国民がe-taxを利用し、ほとんどの利用者が簡単に使えるものだとされています。

なお、2007年には190万人以上の個人が e-tax を使って申告等を行ったとされています。

2008年分の申告は現在提供されているソフト・ウェアを使って行うことができますが、過年度分のソフト・ウェアは現在提供されていません。また、過年度分の申告等を当該年度のソフト・ウェアを用いて電子申告することもできません。

2.e-taxの利用について
2004年度のe-taxの使用については、2004年12月13日まで利用可能とされています 。また、適正に行われた申告については、14日以内にその処理を終える予定であるとされています。
この二週間で早期の処理をするというのは、今年も同様に、せールス・ポイントです。
なお、法定申告期限は2004年10月31日(2004年は、10月31日が日曜なので11月1日)です。(注1)
法定申告期限に遅れた場合は、原則として、加算税、延滞税が課せられます。これらの附帯税に関しては、その賦課率、宥恕規定の適用その他課税要件は、日本に比して非常に厳しいものであるので注意が必要です。
e-tax2004のソフトウェアは、税務申告及び児童手当申請(Baby Bonus Claim)の両方について電子的に計算し、オンラインによる申告ができるものです。(注2)

e-tax 2008 に関しては、さらに、Medicare benefit tax statement を行う際にも有効だとされています。詳細は、いずれ検討したいと思いますが、これは、日本でいう医療費控除に相当する制度ですが、単純な所得控除制度とは違います。

3.e-taxを使用した場合の利点
・ 早期処理 多くの場合税務申告(児童手当申請、以下あわせて税務申告等といいます。)または、児童手当申請 は14日以内に処理されること
・ 利便性 e-taxxソフトの設問に答える形式で自動的に税務申告等を作成することが簡単にでき、同じことを何度も記入することは不要となること
・ 前年の情報の利用 前年もe-taxを利用している場合は、前年の情報を本年においても利用することができること
・ 児童手当申請の選択 前年、児童手当申請を行っている場合は、e-taxソフトが前年のATOの有する前年事績に基づき、児童手当申請を自動的に作成することも選択できること
・ 簡単な税額計算 e-taxは、累進税率による税額計算を簡単に行えること
・ 計算間違いがないこと 自動計算なので計算間違いはないこと
・ その他 e-taxを使うと、クリックするだけで、ATOの広報物や、通達、ヘルプ画面や説例を知ることができること

4.e-taxの安全性
 e-taxによる申告は暗号化によるセキュリティ保護がなされています。

5.複数利用が可能
 e-taxソフトは、一度ダウンロードすれば、複数の納税者が税務申告等に利用することが可能です。

Ⅱ.e-taxの利用に際し必要なもの

1.パソコン環境等
インテル・ペンティアム(または、同様の仕様)内蔵PC、ウィンドウズ98(マッキントッシュの場合は、ウィンドウズ互換性のあるもの)以上のOS、インターネット・エクスプローラ又は、ネット・スケープ、および、インターネット接続環境が必要とされます。

2.証明書等
前5年間(1999~2003年)において納税申告等をした人の場合は、2004年5月30日以前に交付された申告通知書(notice of assessment, NOA)が必要とされます。そして、NOAには、発行日、処理番号、氏名が記載されていなければなりません。

前年までに納税申告等をしたことがない人の場合は、税務申告番号(tax file number, TFN)を2004年5月30日までに取得しなければならないことになります。

3.e-taxソフトのダウンロード
 は通常の申告ソフトの他、必要な場合は、キャピタル・ゲイン・タックスのソフト、広報物や通達もダウンロードすることができる。

Ⅲ.その他

1.申告書のコピー等
e-taxによる場合は、紙による申告は不要となりますが、自分の申告の紙のコピーの保存が必要です。また、コピー、その他の記録等については、5年間の保存が義務付けられています。

2.e-taxの修正
e-taxの修正は、氏名、住所、電話番号、税務申告番号を記載した申請書によることが必要です。
申請書記載事項の例示としては、修正を求める年度、申告の種類とその番号および修正を求める事項、収入または控除可能額の増加または減少額、修正による増加または減少税額、間違いの理由、申請書、添付書類その他が真正なものであるとの署名入りの宣言、当該修正に関連する追加資料等があげられています。

Ⅳ.電子申告の普及の背景としてのオーストラリアの税制・税務行政について

1.賦課課税制度からの移行という背景
オーストラリアの電子申告の達成率が70%云々だというのは事実です。
しかし、その背景としては、本来賦課課税スタイルだったものが80年代以降、移民政策の変化により人口が増え処理しきれなくなったため、Self Assessment(自己賦課制度というべきだと考えています。)に移行したものと考えるべきでしょう。
形の上では、日本、オーストラリア、アメリカはいずれも申告納税制度とされていますが、その意味するところはそれぞれ違うというべきです。それは、これらの国々の歴史的・社会的背景の違いに起因すると考えています 。(注3)
オーストラリアについていうと、従来から賦課のための資料提出を行っていたものが税額まで自分で計算するシステムになった、と理解すべきなのでしょう。 

イギリスの植民地であったという歴史的事情もあり、ATO非常に大きな独立した権限を持ち、従来から納税者は所得税、法人税に関する資料を提出する義務を負い、それが電子化されたというのが普及率の高さの原因の一つと考えることも可能です。

2.煩瑣な資料情報・申告手続の存在
今ひとつの電子申告普及率の高い原因としては、煩瑣な事務手続きの存在をあげなければなりません。
事業者(個人、法人等)は、規模に応じ毎月ないし4半期毎に事業報告書の提出と納税の義務があり、確定申告により精算するという形です。さらに、これに、雇用者の源泉所得税の徴収・納付、GST(原則毎月、小規模事業者は、4半期毎)の申告・納付があるわけです。 日本とは比較にならないほどの納税者の税務に関する事務負担が存在するわけです。(注4)

これらは、歴史的に見て、賦課課税システムだったのでそもそも資料情報を提供するシステムが存在し、さらに、人口が少ないので基本的に納税用の番号以外にさまざまな番号システムにより情報は、ATOに集中するシステムが構築されていたということでなのです。

したがって、電子申告導入以前に様々な下地があったという点は日本との大きな違いです。

2.代理人、セキュリティについて
公認会計士で税理士会に登録している人は納税者と自分の署名により電子申告ができます。
また、日本では非常にセキュリティについて議論がされたわけですが、これに関しては実にシンプルで、カードなどを用いず、3ヶ月ごとにIDとパスワードを変えるという簡単なやり方で対処しています。
手続全体は煩瑣というべきでしょうが、IDやパスワードは盗まれるものであるという前提に立って考えるとすれば至極妥当な解決策を撮っているように思えます。
日本的な、官僚システム無謬論に立っていないところが面白いです。

3.ATO、オンブズマン、税務調査等について
オーすらリアの税理士会で話を聞いた限りにおいては、調査に関して全てコンタクトレターがあって無予告調査は原則としてないということでした。
また、納税者の同意無しには法的に認められている電子化されたインボイスの調査、つまり納税者のコンピュータ・システムを調査官が触ることはできないということでした。当然の適正手続を要求しているのだと理解されるわけです。

なお、税理士会は国税庁に登録をする必要があります。ですから、ATO長官の監督下にあるということになります。さらに、ATO及びATO長官は日本の国税庁ような財務省の実施庁であり、その長官人事は、財務省が行うというような位置づけではありません。
オーストラリア首相が長官を指名し、議会が承認するという独立した立場とされています。これは、イギリスの植民地であったこと、植民地における徴税の重要性が歴史的な背景だと考えられます。

オーストラリアのオンブズマン制度は税務に限定されず連邦行政全般について苦情を聞き、勧告を出すというのが基本的な位置づけです。そして、当然の帰結として、自立した執行権は持っていません。
つまり、権限的には非常に限定されているのだといえます。税務オンブズマンは、中立な立場で国税庁並びに税理士会を監視、調査、勧告するということです。

オーストラリアの国税庁は最大の連邦行政組織で独立性を持っているわけです。さらに、銀行取引、不動産や株式の売買情報も全て番号化されて入手しています。(注5)

納税者と国税庁の力の差は歴然として存在し、ゆえに、オンブズマンは納税者を助けるべく働くが、あくまで勧告レベルに留まるものだといえます。オンブズマンは、納税者と課税庁の間に立って中立な立場でバランスを保つという考え方は、藤山裁判官が著書で書いているのと同様であると感じました。

基本的に、オンブズマンは納税者の苦情を処理するという形で動き出し、その苦情の性質が個別的なものではなく一般的なものであるときはATOに改めるように勧告するというのが基本姿勢です。しかし、それ以外に、オンブズマン自らのイニシアティヴで、ATOの税務行政について調査し、報告、勧告する場合もあるとされています。

今年度のオンブズマン事務所の調査は、国税庁のentry and search(令状と捜索) に対してであるとのことでした。

これは、何を意味するかというと、税理士会で聞いた話は、あくまで原則であって、現実には、ATOが、令状無しに無予告で納税者に関して捜索し滞納処分を行った事例が存在し、それが発端となったということです。

この令状無しの捜索自体は適法ではないわけですが、令状を発行するのはアメリカのような裁判所ではありません。アメリカのサモンズは、執行はIRSですが、それを発する権限は司法としての裁判所が有しているわけです。
それに対して、オーストラリアでは、ATOの内部の公開されていない基準により必要性、関連性があると認められるときはATO自身が礼状発行できるとされています。令状というよりは通知というべきかもしれません。なぜなら、アメリカのサモンズの場合は、当該サモンズに対して差止訴訟を提起する権利が納税者には認められているからです。
さらにこの令状があればいつどこでも誰でも関連性、必要性があると認めるときは捜索が可能であるということで、ATOの持つ税務調査、徴収権限は非常に強大であると認めざるを得ないわけですね。

また、この令状等の問題は滞納処分の場合だけであるかということに関しては、税務調査においても同様であるということです。日本との類似性に驚くばかりです。

つまり、日本の「必要があるとき」概念と同様で、課税庁の権限でなんでもできてしまうというのが実態であると感じられたのです。

権利憲章がある方が良いにきまっているとは考えるわけでが、それができた背景には常に強権的な税務行政執行が存在する(特に徴収、滞納処分の場面においてである。)のだということはアメリカの場合と共通していると考えています。

おわりに

日本も電子申告導入をし、さらに将来的には、サラリーマンのような給与所得者に関して年末調整を廃止して、確定申告を選択的にせよ入れるなどいうことになった場合、税金に対して極めて知識の乏しい一般給与所得者に対して権利の侵害がおそらく滞納処分という形で現れてくるのではないかという器具を個人的にはもっています。現に地方税でそれが行われだしているからですが。

オーストラリア納税者連盟で渡された会報の論説にオーストラリアの自己賦課制度(self assessment)の本質について、「全ての権利をATOに全ての義務・責任 を納税者に負わせる制度にしか過ぎない。」とあったのが象徴的だと思います。

(注1) オーストラリアの個人所得税その他の課税については毎年7月1日から翌年6月30日までが課税期間です。GSTについても同様です。
(注2)税務申告と児童手当申請は両方、あるいは、いずれか一方だけのe-tax利用が可能とされています。
(注3) 中央大学で半年研究経験を持つというオーストラリア税務オンブズマンのジョン・マクミラン教授に
「日本とオーストラリアの制度が非常に似ていると解った。」
と当初に聞いたときは奇異な印象を抱いたのですが、賦課課税制度からの申告納税制度への移行の歴史その他共通点は、確かに多いというべきです。
(注4) これらは、全てオンラインで行うことが可能です。
(注5) 州税の主なものとしてduty tax(印紙税というよりは、印紙税と登録免許税の性格を兼ね備えたものと考え他方が良いと思います。)があります。このduty taxも電子申告・納付が可能です。つまり、契約書等を作成する弁護士が代理して申告・納付をするということです。同じく、州税であるland tax(固定資産税)も、実際の売買実例価額を全て州税務当局が把握していて、それに基づくということになります。
つまり、土地等の不動産その他一定の契約に関してはDuty Tax が賦課され、その基準は当然、契約価額ということになるわけですが、このDuty Tax の電子申告が弁護士により行われるということは、とりもなおさず、それらの契約価額をすべて課税当局が把握できるということにつながるわけです。

さらに、州税であるpayroll tax(事業者の人件費を課税標準とする外形標準課税)の情報に関しても、州外の情報に関しては、ATOと協力関係にあり情報提供を受けています。
オーストラリアは、アメリカやカナダのように連邦制をとっています。一つの州にだけ事業所を有する企業に対してその人件費を把握しその人件費を課税標準とするpayroll tax を課税することはその州の課税当局にとっては当然可能であるわけです。しかし、複数の州にまたがって事業所を有する企業が少なくないはずでそれらに対するpayroll tax はどのように課税するかという問題が生じます。
自州にあるその企業の事業所の従業員数に応じて課税するのであれば、その州の課税当局とその企業のその州の事業所との問題で終わります。しかし、payroll tax の課税の実際は、複数の州に事業所を有する企業に関しては、その企業全体の従業員数に応じたpayroll tax の税額を計算し、それを、自州にあるその企業の事業所の従業員の数により按分して課税するシステムが採られています。
このようなシステムを可能にするためには、州間における情報交換だけではなくATOを介して連邦全体におけるその企業の事業活動を把握することが可能なシステムがあるということです。

今日は、June Tabor を聞いています。Grootna なんて1971年ごろにベイ・エリアで結成されたグループのアルバムを聞いてました。Stone Ground なんかもそうですが、演奏に独創性があるとか好き嫌いとかいう問題以前に演奏がどうしようもなくてとても聞けたものではない・・・・なんてことは全然なくて、ギター、ベース、ドラム、ホーンどれをとってもとっても立派な演奏で安心して聞けるわけですね。
こんなに上手な人たちだったら後年みんな出世したでしょうに。
ではなくて、上手な人たちがやっていたから当然の出来栄えか。

Barney Hoskynsが編集した”The Sound and the Fury: 40 Years of Classic Rock Journalism - A Rock's Back Pages Reader”で、1967年に当時19歳のPaul Williams が書いた記事なんか読むと笑いますね。
というか、落とし前ちゃんと付けろって言いたい。
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by nk24mdwst | 2008-07-21 16:15 | 租税法(日米以外)


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