昨日の「違法支出の損金性」云々について書いたのは、羽田の出発ロビーで忘れないうちにと思ってなのです。
昨日の会議室は、ネットにつながらずいらいらしていたこともありますが、この問題について、忘れないうちに書いておかないとと思ったのです。 飛行機に乗ってからも自宅に帰ってからも、なぜか腹の虫が治まらずにいました。単に意見の相違なのに、不思議だったのです。 この理由は、今朝の日経の書評欄をながめていてわかりました。 今朝の日経の書評欄に、アメリカ音楽に関する本の書評が載っています。その本自体は、読んでいないので、コメントできませんが、少なくとも評者のアメリカ音楽(ゴスペル、ポピュラー音楽)に対する考え方はうかがえるわけで、それについて大きな違和感を覚えました。 どのような違和感かということは、その本とも関係するのですが、まあ、読むときっと腹が立つだろうなと思うのでこの違和感についても触れません。 なぜ、昨日むかっ腹が立ったかの理由が、わかったのです。 違法支出の損金性を日本の租税訴訟等において問題にするときに、日本の税法に適切な規定がないので、無理やりアメリカの内国歳入法典とアメリカの判例を引用してくるのです。 先日、出されたワシントンD.C. における銃規制法が違憲だという連邦最高裁判決をきっかけにして、ここ最近、アメリカにおけるコモン・ローないし、判例の法的拘束力について考えていたところなのですが、租税法領域という異なる分野ですが、アメリカと法体系の異なる日本へアメリカにおける判例法によって確立された論理を持ち込むことに対する疑問を持ったのです。 なぜ、むかっ腹が立ったかについて、昨日は思い出せなかったのですが、かつて私が違法支出の損金性について書いたとき、昨日と同じ人が注文をつけたことに思い当たったわけです。 ここまでは、内輪の話なので、どうでもよいのですが。結局、日本における違法支出の損金性否定の問題を議論するときに公序の理論を用いることの可否についてのネタ元は後掲の金子宏「租税法」なのですね。 しかし、この金子「租税法」の記述に関して、きちんと検討しなければならないと考えています。 さらに、この概念を含めたアメリカの所得課税における必要経費概念についての研究というと碓井光明教授による「米国連邦所得税における必要経費の研究(1)~(5・完)」(法協93・4・505、5・728、7・1093、8・1243、94・4・494)以後、碓井教授の論文が参考になります。 コモン・ロー、判例法の体系と実際の米国租税訴訟判決、内国歳入法典を直接調べたこともない人に、自分の書いたものを切り捨てられたことがあり、それが原因で腹が立ったということに思い至ったという次第です。 違法支出の損金性をめぐる問題点について、少し書いてみます。 法人税の計算において、違法支出の損金算入についての二つの考え方があります。損金算入を認める考え方と認めない考え方があります。 例えば金子宏「租税法第13版」301頁(成文堂、2008年)では、 「アメリカには、その控除を認めると公序(public policy)に反する結果が生ずるような支出の控除は、認められないとする法原理(公序理論)が存在するが、(略)、ただ、わが国では、損金に算入できない制裁や罰金を限定列挙する制度をとっているから、たとえその控除が政策目的を減殺するものであっても、列挙からもれている場合は、控除を認めざるを得ない。」としていて、法人税法や所得税法に損金算入(必要経費算入)を認めない規定が存在しないものは、損金算入を認めるという考え方です。 さらに、違法や不法な取引から得られた収益も益金(総収入金額)を構成するわけですから、それらの収益を得るために必要な支出も控除を認めるべきであるという議論も成り立ちます。 例えていえば、違法である麻薬等の売却収益を獲得するためには、麻薬等の仕入れが必要であるからその仕入れに要した支出を損金(必要経費)として認めるかどうかということです。 それに対して、損金算入を否定する考え方があります。 この考え方は、租税法以外の法律が禁止している行為に係る支出については、税法においても統一的に考えるべきであって、税法解釈にも公序の理論を用いるべきだというものです。 この考え方によれば、租税法令に損金不算入(必要経費として認めない)とする規定がない場合であっても、つまり税法上の名文上の規定がなくとも租税法律主義には反しないとすることになります。 この考え方に基づく判例は少なくありません。 例えば、特殊浴場業者等が暴力団組織に支出した営業の違法な妨害をしないことの対価に 「公序良俗に反する支出というべきであるから、法人税法上損金として認める余地はない」と、法人税法上の規定に根拠を認めず、公序良俗の観点から損金算入を否認した事例が多くあるのです(東京地判平元12.5、東京地判平元12.8、東京地判平元12.12他)。 個人的には、このような判決の論旨に賛成しかねます。 なお、平成18年度税制改正により法人税法55条に「不正行為等にかかる費用等の損金不算入」の規定が設けられました(所得税法は、同法45条に賄賂等の規定が追加され、隠ぺい仮装行為は規定されていません。)。 この規定が設けられた趣旨に関して、平成18年「改正税法のすべて」351頁は、 これは、平成15年に国連で採択され、第164通常国会で批准された「腐敗の防止に関する国際連合条約12条4項の賄賂等の支出に関する税の控除の定めを受けて、①刑法198条(贈賄) に規定する賄賂、②不正競争防止法18条1項(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)に規定する供与利益額の合計額相当の費用又は損失の額の損金不算入が規定されたものです(法法55⑤)。併せて、賄賂以外の違法支出の損金算入を許容するものではないことを明確化するものとして、租税負担の減少を目的とする事実の隠ぺい・仮装行為に係る費用又は損失の損金不算入(法法55①②)、さらに、改正前の同法36条から法人税等と切り離して附帯税等、罰課金、科料等の損金不算入規定を移して「不正行為等にかかる費用等の損金不算入」とされたものです(法法55③④)。と解説しています。 上記のような判決においては、公序の理論を論拠とするわけなのですが、それについては、わが国の実定法上に明確な条文が存在しないので法人税法22条4項の「公正処理基準」に依拠して、違法支出の損金不算入の根拠とする傾向が見られます。 この論理には、明らかに飛躍があると考えます。 アメリカにおける「公序の理論」の契機となったといわれることもあるリリー判決においては、 「たとえ倫理に反する性質の支出であっても、不法又は、連邦若しくは州の政策に反しない限り控除性を失うものではない」と判示したのです。つまり、公序と納税者の予測可能性の調和がなされる必要があるという考え方が基本にあるわけです。 リリー判決の概要は、以下のとおりです。なお、この概要は、判決文を私がまとめたものです。原告であるリリー夫妻は南部の数州で眼鏡商を営んでいた。当時、その地方の業界において確立しかつ広範に行われている慣行を反映した合意により、原告の顧客の眼鏡の処方箋を書いた眼科医に対して、眼鏡の小売価格の三分の一にあたる金額を支払っていた。これは、従来、その地方の眼科医が、眼鏡のレンズとフレームを仕入れて患者の目に適合する眼鏡を調整して売るという方法で利益を上げている慣行があったので、原告夫婦は、この利益に見合う金額として前記金額を眼科医に支払っていたものである。本件においては、当該支出の控除の可否が争われた。バートン判事は、 「本件支出が事業倫理又は公秩序に関わるものであると明言することはできない。」として納税者の主張を認めた。なお、問題となった年度以後においてその地方における州法がそのような支出を禁ずるように改正されたことにも言及している。(Lilly v. Commissioner, 343 U.S. 90 (1952)) the ordinary and necessary expenses と公正処理基準、公序の理論については、上述の金子「租税法」が述べているほど簡単に結論が導けるものではないと考えますし、公序の理論を勝手に司法が租税訴訟において用いるのは、新たな立法を行うのと同然なのであり、抑制的であるべきだと考えます。 また、バートン判事の意見において、州法の改正が行われたことの意義をよく検討してみる必要があるのだと思います。
by nk24mdwst
| 2008-07-06 12:09
| 租税法(日本)
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