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tax from hell

5 サモンズ執行命令が出される場合の要件基準

5.1「関連性」に関して
IRC7602条(a)項は、調査に「関連性または重要性を持つ可能性のある」いかなる情報に関してでもIRSに対し、サモンズを発令する権限を与えています。「関連性、重要性」と言う文言の法的意味は非常に広いため、多くのサモンズ執行請求訴訟において争点となってきています。しかし、多くの判例は、「関連性、重要性」の拡大解釈を認めてきているのが実情です。
結果としてIRSは、納税者の納税義務に対して「光を当てる可能性を持つ」いかなる情報に対してでもサモンズを発令することが可能であることになるわけです。

「関連性」が争点とされた判例としてArthur Young事件を取り上げます(注11)。事案の概要は次の通りです。
会計事務所であるArthur Young & Co.は、Amerada Hess社に対し連邦証券取引法に基づく監査を行っていました。IRSは、Amerada Hess社に対し税務調査を行い、その過程においてArthur Young事務所が監査手続の手順の一部として作成した租税見越文書(tax accrual workpapers)の提出を求めましたが、Amerada Hess社は、Arthur Young事務所に対し、その提出を拒否するよう求めました。Arthur Young事務所はそれに従ったのでIRSは、Arthur Young事務所に対しサモンズを発したわけです。IRSが提出を要求した租税見越文書は、Amerada Hess社の租税債務を見積もるために作成されたものではありますが、同社の税務申告において直接使用されたものでなかったので、「関連性」に関して争われたということです。
判決は、Amerada Hess社の税務申告の正確性に対し「光を当てうる可能性をもっていた」ので関連性の要件を満たしているとし、サモンズの執行を認めました。

5.2 不必要な調査および再調査の禁止
IRC7605条(b)項は、
「納税者は不必要な調査を受けることがあってはならない。また、納税者の帳簿の検査は各課税年度につき一度しか行うことができない。ただし、納税者が別の調査を要求する場合、または財務長官が、調査の後、さらに調査が必要であると書面で通知する場合はこの限りでない」
と規定し、不必要な調査と再調査は原則として禁止されています。
不必要な調査に該当する場合としては、IRSが納税者に要求した情報をすでに入手している場合をあげることができる(注12)
とされています。

しかし、IRC7602条に規定する質問検査権の範囲は非常に広いのでこの規定によって保護されるものは少ないといえます。納税者がIRSによる調査を「不必要な調査」であるとして対抗するのは非常に困難であることは想像に難くありません。加えて、連邦最高裁は、「不必要な調査および再調査の禁止」基準に関し、Powell判決において
「政府が脱税を疑うにたる合理的理由を保有していない課税年度に関する再調査をも許容するものである」(注13)
と解釈しています。
また、同判決は、
「『不必要な調査』に対する法的禁止条項の目的は、IRCにより調査官に与えられている広範な調査権限を行使する際に慎重な判断を行わなければならない調査官の責任を強調しているに過ぎない」
としています。

連邦最高裁Powell判決が示しているのは、裁判所がサモンズ執行を差止められるのは、不当な目的のために当該サモンズが発せられた場合に限られるということです。

5.3 不当な目的
納税者または、被召喚者がサモンズの執行に対抗するためには、Powell判決で示されたようなサモンズの不当な目的性を立証しなければなりません。つまり、サモンズが
「『納税者等を困らせるため、平行線を保ったままの議論を解決するための圧力を納税者にかけるため、またはその他善意に反する目的のため』発せられたものであることを納税者(被召喚者)が立証する必要がある」(注14)
ということです。

5.4 IRSがすでに保有している情報について
連邦最高裁におけるPowell裁判において明らかにされたIRSの発するサモンズに対する正当な反対理由としては、すでにIRSが保有している情報に対するサモンズに関する場合があげられます。この点に関し、連邦最高裁は、
IRSが実際、物理的に保有している情報に関するサモンズ発令は認められない
としました。しかし、
単に以前のサモンズによる記録の調査において当該情報にIRSが接したことを示すだけでは、同じ理由に基づく後から出されたサモンズの効力を失わせるものではないとも
判示しています。

6 サモンズによる召喚手続と被召喚者の権利保障手続

6.1 IRSによる召喚手続の執行
IRSは、サモンズを発する権限 を有するにとどまり、サモンズに従わない者を処罰することもできません。また、被召喚者を無理にサモンズに従わせる権限も有しません。代わりに、 IRC7402条(b)に基づきサモンズの執行を求める訴訟(summons enforcement proceeding、以下、サモンズ執行請求訴訟という)を被召喚者等の住所等を管轄する連邦地方裁判所に提起しなければなり ません。あるいは、IRC7604(b)項に基づき、地方裁判所に対し被召喚者のIRSに対する侮辱を理由に当該被召喚者を逮捕し、身柄を拘束する命令を 発し、サモンズ執行の審理を求めなければならないことになります。
別の手段としては、IRSは、IRC7210条に基づき、サモンズに従わない被召喚者を訴追するためその事案を司法省に付託する方法ですが、これが実行されることはまれであるとされています。
Sec. 7210. Failure to obey summons
Any person who, being duly summoned to appear to testify, or to appear and produce books, accounts, records, memoranda, or other papers, as required under sections 6420(e)(2), 6421(g)(2), 6427(j)(2), 7602, 7603, and 7604(b), neglects to appear or to produce such books, accounts, records, memoranda, or other papers, shall, upon conviction thereof, be fined not more than $1,000, or imprisoned not more than 1 year, or both, together with costs of prosecution.

6.2 被召喚者によるサモンズ差止め訴訟手続
サモンズ執行に関する法的手続規定は、上記の通りですが、被召喚者がどのような手続でサモンズの適法性を争うことができるかと言う法律上の明文の規定は存在しません。歴史的には、判例の積重ねによって被召喚者がどのような権利を有するかが明らかにされてきたといえます。

Reisman 事件における連邦最高裁の見解を要約すると以下のとおりです。(
1) 被召喚者及びサモンズによって自己の権利利益に影響を受ける者は、被召喚者の出頭期日に出頭し、IRSの聴聞官の前で憲法上の理由その他の理由に基づいて、サモンズに対して不服理由を申立てることができる。
(2) IRSは、サモンズを執行しようとする場合には、IRC7402条(b)項の定めるところにより、サモンズ執行請求訴訟を連邦地方裁判所に提起しなければならない。連邦地方裁判所は、適法な手続で被召喚者に対して当該サモンズに従うことを強制する権限を有する。
(3) 被召喚者またはサモンズによって自己の権利利益に影響を受ける者は、サモンズ執行請求訴訟に参加し、憲法上の理由その他の理由に基づいてサモンズの適法性を争うことができる。
(4)サモンズ執行請求訴訟は、被召喚者の権利利益を保護するために対審構造に基づく審理で行われる。この審理においては、裁判所は、サモンズを執行することが違法であるという被召喚者の主張について審査を行い、サモンズを執行すべきか否かについての決定を行う。
(5) IRSが納税者以外の第三者に対してサモンズを発した場合において被召喚者が任意に従おうとしている場合には、納税者または利害関係者は、裁判所に対して 当該行為の差止命令を求めることができる。また、この差止命令の請求は、サモンズ執行請求訴訟において裁判所が被召喚者にサモンズに従うことを命ずる前で あればいつでもすることができる。

6.3 Powell基準(Powell Standards)
サモンズ執行請求訴訟における 当初の立証責任は政府が負っている。 Powell事件の判決で、連邦最高裁は、サモンズ執行請求訴訟においてIRSが、サモンズ執行命令を裁判所から得 るためには、サモンズを執行するだけの「相当の理由」を裁判所に提示する必要はないとの見解を示しました。つまり、IRSは、サモンズの執行に関し疑問の 余地のない正当性を立証するためには、Powell裁判で確立された次の4つの基準に従っていることの立証が必要であることになります
。(1)サモンズが関連する調査が正当な目的 ( legitimate purpose )のために行われること(正当目的の基準)
(2)サモンズにより求められる情報が上記の目的との関連性を有する可能性があること(関連性基準)
(3)IRSがすでに保有している情報に関するものでないこと(情報未入手の基準)
(4)IRCに規定された行政手続がIRSにより遵守されていること(行政手続遵守の基準)(注15)

Powell 事件における連邦最高裁の判示の特色は(1)サモンズ執行請求訴訟に連邦民事訴訟規則が適用されるとしていること、(2)IRSがサモンズ執行請求訴訟を 濫用することは許されず、その濫用があったということについての立証責任は、納税者側が負うこととしていること、などの点です(注16)。

このように、IRSが上記の基準を満たしていることを立証した場合には、そのサモンズが不当な目的または悪意によるものであることを証拠により立証する責任は、被召喚者のほうに移ることになります。

被 召喚者が、サモンズを発せられた場合において、例えば不当な目的、悪意の存在、あるいは4つのPowell基準のうち、ひとつが実際には充足されていない といった通常、IRSにしか分からない事実を立証しない限り、裁判所はサモンズ執行命令を下すことになるわけです。現実のサモンズ執行請求訴訟では、これ らが立証されることはまれであり、裁判所は、サモンズの執行に関し非常に緩やかな基準で命令を出しているのが実情だとされています。

つま り、納税者(被召喚者)は、裁判所という司法の場に訴えることにより、サモンズの執行という行政権の発動の可否を問うことができるのは事実です。しかし、 実際には、ほとんどサモンズ執行請求訴訟においてIRSが執行命令を勝ち取っている以上、サモンズが発令されてしまえば納税者は、強制調査を受けざるを得 ないということなのです。したがって、サモンズを発する権限を有するIRSの調査権は、非常に強大であるといえます。
さらに、サモンズは、単に納税者に対して発せられるだけでなく、以下に見るように第三者に対しても広く発することが認められていることにより調査権の広さは、さらに大きくなります。

7 第三者に対するサモンズの特別手続規定

7.1 1998年改正
IRC7602条の規定は、IRSがサモンズを調査対象の納税者以外に対し発することをなんら制限していません。
具体的には、IRSが特定の納税者の納税義務に関する質問検査のために、その納税者の隣人や顧問会計士、取引銀行といった第三者に対しサモンズを発した場合、その納税者はサモンズに関し通知を受ける権利を有するかという問題です。

1998年の納税者権利保障法(the 1998 Taxpayer Bill of Rights 3)の制定以前は、その第三者がIRC7609条に規定する「第三者たる記録保有者」に該当するかどうかによってその取扱いは異なっていました(注17)。

IRC7609条の規定の要旨は次の通りです。
IRS が、「第三者たる記録保有者」に対しサモンズを発した場合で、そのサモンズが事業記録の提出を求めるものであるときは、そのサモンズの対象となっている納 税義務を負うべき納税者に対し、サモンズが送達された旨およびその納税者がサモンズの執行を差止める訴訟に参加する法律上の権利のあることを通知しなけれ ばならない。また、通知を受けた納税者は、「第三者たる記録保有者」にサモンズに従ってはならないことを通告し、サモンズに従うことを差止めることができる。
このような第三者に対する税務調査の手続を整備した理由は、サモンズは、税務調査を執行する上で必要不可欠であるが、これによってプライバシーを守る権利を含む納税者の権利が不当に侵されてはならない(注18)ということによります。

1998 年改正法は、この手続自体については改正していませんが、IRSが「第三者たる記録保有者」以外に接触した場合に関して改正されたわけです。1998年改 正法前は、その第三者が「第三者たる記録保有者」に該当しない場合は、納税者にはIRSがサモンズを発したり、接触していても、それに関する通知を受ける 権利は認められていませんでした。しかし、1998年改正法は、IRSが第三者に対しサモンズを発する場合に、納税者に対する事前通知を必要要件としたの です。
ただし、この通知は犯則事件の場合および緊急を要する徴収手続の場合は、必要とされていないので注意が必要です。

7.2 第三者たる記録保有者
IRC7609条(a)項(3)は、「第三者たる記録保有者」には次に規定するものが含まれるとしています。(
1)銀行、貯蓄貸付組合その他の各種金融機関
(2)公正信用法603条に規定されている消費者報告局
(3)クレジットカードまたはこれに類する方法で信用を供与するもの
(4)1934年証券取引法3条(a)項(4)に定義されている証券ブローカー
(5)弁護士
(6)会計士
(7)IRC6045条(c)項(3)に定義されるバーター組合等
です。

サ モンズを発せられた者が上記の「第三者たる記録保有者」のいずれかに該当する場合であっても、調査対象となっている納税者に対し、サモンズが発せられたこ とを通知され、それについて争う機会が常に保証されているわけではありません。例えば、銀行に勤務している納税者に対する税務調査において、その納税者の 雇用記録等の提出を求めるサモンズがその勤務している銀行に出された場合、銀行は、上記の「第三者としての記録保有者」に該当しますが、そのサモンズの発 せられたことは調査対象である納税者には通知されないということです。

7.3 納税者が第三者に対するサモンズに関し通知を受けられず、争えない場合
IRC7609条は、納税者の第三者に対するサモンズの通知を受け、そのサモンズ差し止め訴訟に参加することのできない場合をいくつか規定しています
。(1)被召喚者が一般的にも、あるいは、納税義務が質問検査の対象となっている納税者に関しても「第三者たる記録保有者」に該当しない場合
(2)サモンズが納税者自体、あるいは、納税者の役員や従業員に対してのものである場合
こ れは、銀行や他の「第三者たる記録保有者」はこの「第三者たる記録保有者」に対するサモンズが、発せられた場合の通知を受ける権利や、そのサモンズ差し止 めを請求する権利を有しないということです。つまり、銀行等は、サモンズの通知を受けることなく調査を受ける可能性があり、他の納税者のように争う権利を 有しないことになります
。(3)サモンズが単に調査対象となっている納税者との取引に関する記録を保有しているかどうかを確認するための場合
(4)金融機関に番号のみ登録している口座を有している個人を特定するためのサモンズの場合
(5)徴収手続のためのサモンズの場合

8 ジョン・ドウ・サモンズ(John Doe Summons)
一般的には、サモンズはその対象となる納税義務を負うべき納税者を特定する必要があります。しかし、特定の場合においては、IRCは、IRSに対し納税者を特定するためのサモンズを発することを認められています。これが、いわゆる「ジョン・ドウ」・サモンズの目的です。

「ジョン・ドウ」・サモンズを発するためには、IRSは、以下の事実を裁判所における聴聞において明らかにする必要があることがIRC7609条(f )項に規定されています
。(1)サモンズが特定の個人または特定しうるグループもしくは種類の納税者の調査に関連するものであること(例えば、特定のタックス・シェルターの購入者等)
(2)上記の納税者等が税法を遵守していない可能性があると信ずるにたる合理的根拠があること
(3)サモンズにより得られる情報が他の情報源から得られないこと

IRSが上記の基準を裁判所において証明することができない場合は、裁判所はサモンズの執行を差止める事になります。(注19)

おわりに

IRSの行う調査は、原則として任意調査であるが、サモンズを発することにより強制力を持つ調査に移行することが可能です。IRSは、サモンズを発することはできますが、その執行を決定するのは司法である裁判所の役目であるところに特徴があると見ることができます。
納 税者等は、サモンズの執行に関し、不服があるときは、差止めの訴訟を提起することも可能です。納税者に対しては、サモンズの執行という強制調査の段階に 入ってもなお、裁判所において反論をする機会が与えられているわけです。これを、アメリカに伝統的な司法権優位の考え方と見ることもできます(注20)。 また、サモンズ執行請求訴訟という司法権による事前チェックは、事後チェックより行政権に対する牽制効果が大きいと考えることもできます(注21)。

厳 格な権力分立による相互監視システム、具体的には、行政に対する司法審査のあり方の典型としてアメリカの税務調査におけるサモンズ制度を捉えることもでき るでしょう。司法と行政の緊張関係、租税法律主義に基づく適正手続(デュー・プロセス)の重視が納税者の権利保障の基底にあると考えられるからです。

し かし、サモンズの執行に関しての判例は、IRSの裁量権をかなり広く捉える傾向が確立しており、IRSが強大な調査権限を有していることは事実です。他 方、判例により確立されてきた納税者の権利保障に関する見解が議会により法制化されてきた事実も見逃すことはできません。
アメリカ特有ともいうべき立法、司法、行政の権力相互間の抑制、緊張関係の中で主権者である納税者の権利保障法制が制度化されてきたと考えるべきでしょう。

こ れに対し、我が国の行政裁量論では、行政庁による自由裁量(特に、税務行政のような専門的判断)に関しては、行政権の第一次判断権を尊重し、司法審査の対 象外としているのが原則とされています。アメリカのような納税者の権利の保護、救済のため、司法権が行政裁量を積極的に審査の対象とする司法権と行政権の チェック・システムは、我が国には存在しません。
さらに、司法権による行政権の事前審査には訴えの利益がなく、原則として認められないとするのが有力な見解です。しかし、租税法律主義は、司法による行政の相互監視システムなくしては成立しないと考えます。

第三記録保有者に対するサモンズの存在は、会計士等の税務・会計専門家に対しても保有帳簿や記録等を全てIRSに提供しなければならないことを意味すします。これは、逆に、納税者からの損害賠償責任も大きくなることにつながると考えるべきです。

税務行政手続規定の整備は、申告納税制度の下では、必然的に、納税者や税務・会計プロフェッショナルの義務・責任の増大につながります。その結果、強大な調査権限を有する課税当局と対抗するために納税者の権利保障規定の制定が必要となると考えられます。
詳細な税務行政手続規定を有するアメリカが、その手続規定の詳細さゆえに、かえって他の国に見られないほど詳細な納税者権利保障法を制定してきているのは決して偶然ではないのだと考えます。

日本において、サモンズのような制度が導入されることはないと考えます。しかし、アメリカの税務調査を始めとする税務行政手続法制の根底にある適正手続の考え方を日本の税務行政において導入することは、納税者の権利保障のために有用であることには変わりはないはずです。
はじめにでも述べたように、日本では税務行政に関しては、国税通則法74条の2により適用除外とされています。しかし、アメリカでは税務行政も当然に行政手続法の適用を受けることになっています。
日本の裁判所は、税務職員の質問検査に関する租税裁判において、「法律上の根拠規定の欠如」と「税務職員の裁量権」を理由として納税者の主張を退けています。
しかし、税務調査をはじめとする税務行政手続が行政手続法の適用除外とされていること、国税通則法の手続体系における納税者の権利保障規定に関する認識に問題があるように思えてなりません。
特に、質問検査権の行使における「任意」と「強制」が判然とせず、法律的には任意であるにもかかわらず、納税者等が「強制」と認識してしまうような税務調査の現状は、改善されるべきでしょう。
日 本における納税者の権利保護を論ずる際に、比較対象として米国を持ち出すのであれば、制定法・手続規則・マニュアル・IRS publication等の 文言を引用すれば足れりとするのではなく、実態を踏まえた議論が必要である(注22)という指摘は当然です。これまでも触れたように、納税者や納税者に関連する第三者に対する厳格な帳簿・記録等の保存義務とそれに対するIRSのサモンズを背景とした強大な調査権を抜きにしてアメリカの納税者権利保障制度を 論ずることはできません(注23)。
アメリカの税務調査を始めとする税務行政手続法制の根底にある適正手続の考え方を日本の税務行政において導入することは、納税者の権利保障のために有用であることには変わりはないと考えています(注24)。

(注記)
11.United States v. Arthur Young & Co.,465 U.S. 805
12.金子前掲論文42頁
13.United States v.Powell,379 US 48 (1964)
14.Id.
15.金子前掲論文27頁以下
16.下川前掲論文135頁
17. この種の問題は、日本における反面調査の手続の問題に該当する。アメリカにおいては、税務行政手続規定がかなり整備されているが、第三者に対して税務調査 が行われる場合に事前に納税者がどのような権利が保障されるかということについては、1976年税制改正によりIRC7609条が制定されるまで法律上明 文規定は存在していなかった。
18.下川前掲論文143頁
19.ジョン・ドウ・サモンズに関しては、金子前掲論文64ページ以下に詳しい。
20.金子前掲論文23頁
21.金子前掲論文71頁
22.百瀬智浩「審判の対象物としてのIRSの調査手続-米国における納税者権利保護の実体の一端」『税務大学校論叢34号』387頁(1999)
23. 日本における任意調査における無予告現況調査の実態は、非常に大きな問題であると考えられる。他方、アメリカにおいても反則調査(criminal investigation)に関して、IRSの調査の実態に関しては、手続的には条件を充足しているにもかかわらず結果的に納税者のプライバシーや、人権を侵害する場合が多いことが問題となっていて、1999年にWebster判事による報告が出されている。
24.大きな前提として情報公開法の利用による税務行政機構の有する情報の公開が非常に重要であろう。

(参考文献)

大塚正民「アメリカ連邦税法における質問検査権(1)(2・完)」『税法学』231号20頁以下、同232号1頁以下(1970)
中里実「アメリカにおける租税調査権の概観」『一橋論叢』94巻5号18頁以下(1985)
水野忠恒「アメリカにおける中小企業課税」『日税権論集』4号133頁以下(1987)
水野忠恒「行政調査論序説――アメリカ合衆国における租税調査および行政調査制度の概観」雄川一郎先生献呈論集『行政法の諸問題(中)』(有斐閣、1990)
市川深、飯塚亮介「アメリカと日本の税務調査の比較研究」『東京経済大学学会誌189号123頁以下、191号163頁以下、192号141頁以下(1995)
Morgan,Patricia T.Tax Procedure And Tax Freud ,WEST GROUP ,(St.Paul,1999)
by nk24mdwst | 2008-04-18 16:02 | 租税法(アメリカ)


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