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昨日、触れた「遡及適用の合憲性/譲渡損失の損益通算を不可とする税制改正」に関する東京地裁平成20年2月14日判決です。出典は、TAINS Z888—1313です。
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東京地方裁判所平成18年(行ウ)第603号、第604号、第606号、第607号更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件(棄却)(原告控訴)
【遡及適用の合憲性/譲渡損失の損益通算を不可とする税制改正】 TAINS Z888-1313

         判  決  骨  子
平成20年2月14日午後1時15分 判決言渡 606号法廷
平成18年(行ウ)第603号、第604号、第606号、第607号更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件
東京地方裁判所民事第2部 大門匡(だいもんたすく) 倉地康弘 小島清二

1 当事者
                   原    告    甲ほか3名
                   被    告    国
                   (処分行政庁:芦屋税務署長、目黒税務署長、
                          吹田税務署長)
2 事案の概要
  原告らは、平成16年分所得税につき、同年2月に土地及び建物を譲渡したことに伴う譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を所得税法69条1項の規定に従い他の各 種所得の金額から控除すべきであるとして更正の請求をした。しかし、原告らの各納税地を所轄する各処分行政庁は、平成17年5月31日付けで、原告らの上記更正の請求のいずれについても更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
  原告らは、上記損失の金額が生じなかったものとみなす改正租税特別措置法31条1項後段の規定を平成16年1月1日にさかのぼって適用するものとする同年4月1日に施行された平成16年法律第14号附則27条1項は、租税法律主義を定めた憲法84条、30条に違反するから上記各通知処分も違法となるとして、それらの取消しを求めた。これが本件事案であり、当該主張の当否が主要な争点である。なお、関係法令は別紙記載のとおりである。
3 主文
  原告らの請求をいずれも棄却する。
4 理由の要旨
  租税法規を納税者に遡及して適用することによって不利益を及ぼすことは、憲法84条、30条から導かれる租税法律主義に反し、違憲となることがあり得る。
  しかし、上記附則27条1項により上記改正租税特別措置法31条1項後段の規定を平成16年1月1日から同年3月31日までの間に行われた土地等又は建物等の譲渡について適用することは、その個々の譲渡についてみれば納税者が一定の不利益を受け得ることは否定できないものの、納税者の平成16年分所得税の納税義務の内容自体を不利益に変更するものではなく、上記のような適用をすることに合理的な必要性が認められ、かつ、納税者においても、既に平成15年12月の時点においてその適用を予測できる可能性がなかったとまではいえないのであるから、これらの事情を総合的に勘案すると、当該変更は、合理的なものとして容認されるべきものである。したがって、上記附則27条1項が租税法律主義に反するということはできない。

別紙 関係法令
(1)所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)
同法69条1項は、損益通算につき、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除すると定めている。
(2) 租税特別措置法(ただし、平成16年法律第14号による改正以後のもの)同法31条1項は、前段において、個人の土地若しくは土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)又は建物及びその附属設備若しくは構築物(以下「建物等」という。)で、その年1月1日において所有期間が5年間を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、所得税法22条及び89条並びに165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡による譲渡所得の金額に対し、長期譲渡所得(保有期間が5年を超える資産の譲渡による所得)の金額の100分の15に相当する金額の所得税を課すると定め、後段において、前段の場合に、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、所得税法その他所得税に関する法令の適用については、当該損失の金額は生じなかったものとみなすと定めている。
(3) 平成16年法律第14号(所得税法等の一部を改正する法律)
附則27条1項は、改正された租税特別措置法31条の規定につき、個人が平成16年1月1日以後に行う同条1項に規定する土地等又は建物等の譲渡について適用し、個人が同日前に行った土地等又は建物等の譲渡については、なお従前の例によると定めている。
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         判  決(平成20年2月14日言渡)
                   別紙当事者目録記載のとおり
         主  文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
         事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 第603号事件関係
 芦屋税務署長が平成17年5月31日付けで原告甲に対してした平成16年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
2 第604号事件関係
 芦屋税務署長が平成17年5月31日付けで原告乙に対してした平成16年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
 3 第606号事件関係
 目黒税務署長が平成17年5月31日付けで原告丙に対してした平成16年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
 4 第607号事件関係
 吹田税務署長が平成17年5月31日付けで原告丁に対してした平成16年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、その平成16年分所得税につき、同年2月に土地及び建物を譲渡したことに伴う譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を所得税法69条1項の規定に従い他の各種所得の金額から控除すべきであるとして更正の請求をしたところ、各処分行政庁が、平成17年5月31日付けで、原告らの上記更正の請求に更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、原告らが、上記損失の金額が生じなかったものとみなす租税特別措置法31条1項後段の規定は平成16年法律第14号により改正され同年4月1日に施行されたものであるが、これを同年1月1日にさかのぼって適用するものとする同改正法附則は租税法律主義を定めた憲法の規定に違反するから、上記通知処分も違法となると主張して、それらの取消しを求めた事案である。
 1 関係法令
 (1) 所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)
 所得税法69条1項は、損益通算につき、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除すると定めている。
 (2) 租税特別措置法(以下「措置法」という。ただし、平成16年法律第14号による改正の前後で区別し、同改正前のものを「改正前措置法」という。また、同改正以後のものを「改正措置法」ということがある。)
 改正措置法31条1項は、前段において、個人の土地若しくは土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)又は建物及びその附属設備若しくは構築物(以下「建物等」という。)で、その年1月1日において所有期間が5年間を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、所得税法22条及び89条並びに165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡による譲渡所得の金額に対し、長期譲渡所得(保有期間が5年を超える資産の譲渡による所得)の金額の100分の15に相当する金額の所得税を課すると定め、後段において、前段の場合に、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、所得税法その他所得税に関する法令の適用については、当該損失の金額は生じなかったものとみなすと定めている。
 (3) 平成16年法律第14号(所得税法等の一部を改正する法律)
 平成16年法律第14号(所得税法等の一部を改正する法律)附則(以下「本件改正附則」という。)27条1項は、改正措置法31条の規定につき、個人が平成16年1月1日以後に行う同条1項に規定する土地等又は建物等の譲渡について適用し、個人が同日前に行った改正前措置法31条1項に規定する土地等又は建物等の譲渡については、なお従前の例によると定めている。
 2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
 (1) 原告らによる不動産の取得
 ア 原告らは、昭和55年8月30日に、別紙物件目録3ないし7記載の各土地を、昭和56年5月7日に、同目録1及び2記載の各土地(以下、上記各土地を併せて「本件各土地」という。)を購入し、それぞれその持分(原告乙につき25分の7、原告丁につき25分の6、原告丙につき25分の6、原告甲につき25分の6)を取得した。
  イ 原告乙は、戊とともに、昭和57年3月31日、本件各土地上に、別紙物件目録8記載の建物を建築し、その持分(原告乙につき100分の36、戊につき100分の64)を取得した。原告乙及び同甲は、戊の死亡による相続によって、同人の上記建物の持分のうち原告乙が100分の51、同甲が100分の13をそれぞれ取得した。
  また、原告らは、昭和57年3月31日、本件各土地上に別紙物件目録9記載の建物(以下、別紙物件目録8記載の建物と併せて「本件各建物」という。)を建築し、その持分(原告乙につき100分の31、原告丁につき100分の23、原告丙につき100分の23、原告甲につき100分の23)を取得した。
  (2) 本件各土地及び本件各建物の譲渡(以下「本件譲渡」という。)(甲1の1〜4)
  ア 原告らは、平成15年12月26日、株式会社A社(以下「A社」という。)との間で、本件各土地及び本件各建物を譲渡する旨の売買契約を締結した。
  イ 原告らは、平成16年2月26日、A社との間で、上記アの売買契約に係る本件各土地の面積及び売買代金を変更する合意をした。
  ウ 原告らは、上記ア及びイの合意に従い、平成16年2月26日、本件各土地及び本件各建物の代金残額を受領し、A社に対して本件各土地及び本件各建物を引き渡した。
 (3) 平成16年分所得税についての原告らの確定申告及び更正の請求並びに原告らに対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下、これらの各通知処分を併せて「本件各通知処分」という。)及び不服申立て
ア 原告甲(別表1-1参照)
 (ア) 原告甲は、平成17年3月15日、芦屋税務署長に対し、分離長期譲渡所得の金額を0円、納付すべき税額を2600万1600円として確定申告をした。
 (イ) 原告甲は、平成17年3月29日、芦屋税務署長に対し、分離長期譲渡所得の損失金額を1億1288万4478円、還付金の額に相当する税額を2141万0083円とする更正の請求をした。
 (ウ) 芦屋税務署長は、平成17年5月31日、上記(イ)の更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 (エ) 原告甲は、平成17年7月4日、芦屋税務署長に対して異議申立てをしたが、同署長は、同年9月22日、同原告の異議申立てを棄却した。
 (オ) 原告甲は、国税不服審判所長に対し、平成17年10月7日付けで審査請求をしたが、同審判所長は、平成18年5月16日、同原告の審査請求を棄却する裁決をし、同年6月2日、同裁決が同原告に送達された。
 イ 原告乙(別表1-2参照)
 (ア) 原告乙は、平成17年3月15日、芦屋税務署長に対し、分離長期譲渡所得の金額を0円、納付すべき税額を2583万5700円として確定申告をした。
 (イ) 原告乙は、平成17年3月29日、芦屋税務署長に対し、分離長期譲渡所得の損失金額を2億0339万9249円、還付金の額に相当する税額を4905万7708円とする更正の請求をした。
 (ウ) 芦屋税務署長は、平成17年5月31日、上記(イ)の更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 (エ) 原告乙は、平成17年7月4日、芦屋税務署長に対して異議申立てをしたが、同署長は、同年9月22日、同原告の異議申立てを棄却した。
 (オ) 原告乙は、国税不服審判所長に対し、平成17年10月7日付けで審査請求をしたが、同審判所長は、平成18年5月16日、同原告の審査請求を棄却する裁決をし、同年6月2日、同裁決が同原告に送達された。
 ウ 原告丙(別表1-3参照)
 (ア) 原告丙は、平成17年3月14日、目黒税務署長に対し、分離長期譲渡所得の金額を0円、納付すべき税額を2601万3700円として確定申告をした。
 (イ) 原告丙は、平成17年3月29日、目黒税務署長に対し、分離長期譲渡所得の損失金額を1億0062万5922円、還付金の額に相当する税額を1624万9123円とする更正の請求をした。
 (ウ) 目黒税務署長は、平成17年5月31日、上記(イ)の更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 (エ) 原告丙は、平成17年7月4日、目黒税務署長に対して異議申立てをしたが、同署長は、同年9月21日、同原告の異議申立てを棄却した。
 (オ) 原告丙は、国税不服審判所長に対し、平成17年10月6日付けで審査請求をしたが、同審判所長は、平成18年5月16日付けで同原告の審査請求を棄却する裁決をし、同年6月2日、同裁決が同原告に送達された。
 エ 原告丁(別表1-4参照)
 (ア) 原告丁は、平成17年3月15日、吹田税務署長に対し、分離長期譲渡所得の金額を0円、納付すべき税額を2601万7900円として確定申告をした。
 (イ) 原告丁は、平成17年3月29日、吹田税務署長に対し、分離長期譲渡所得の損失金額を1億0062万5922円、還付金の額に相当する税額を1624万4923円とする更正の請求をした。
 (ウ) 吹田税務署長は、平成17年5月31日、上記(イ)の更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 (エ) 原告丁は、平成17年7月4日、吹田税務署長に対して異議申立てをしたが、同署長は、同年9月12日、同原告の異議申立てを棄却した。
 (オ) 原告丙は、国税不服審判所長に対し、平成17年10月7日付けで審査請求をしたが、同審判所長は、平成18年5月16日付けで同原告の審査請求を棄却する裁決をし、同年6月2日、同裁決が同原告に送達された。
 (4) 本件訴え(顕著な事実)
 原告らは、平成18年11月6日、東京地方裁判所に本件各通知処分の取消しを求めて本件訴えを提起した。
 (5) 改正措置法の立法に係る経緯(甲2から5まで、乙7から14まで、18)
 ア 内閣は、平成16年2月3日、所得税法等の一部を改正する法律案(改正措置法の原案を含む。)を第159回国会に提出した。
 イ 上記アの法律案は、平成16年2月12日衆議院予算委員会において、同月17日衆議院本会議において、同月24日衆議院予算委員会において、それぞれ審議された。そして、同月26日及び27日衆議院財務金融委員会において、同年3月1日衆議院予算委員会第七分科会議において、それぞれ審議され、その後衆議院本会議で可決された。同法律案は、同月12日参議院本会議において、同月15日参議院予算委員会において、それぞれ審議され、その後参議院本会議において可決され、同月31日成立し、所得税法等の一部を改正する法律(平成16年法律第14号)として公布された。
 ウ 改正措置法31条を含む上記所得税法等の一部を改正する法律(平成16年法律第14号)は、平成16年4月1日施行された。
 3 争点
 本件の争点は、平成16年3月31日に公布され同年4月1日に施行された改正措置法31条1項後段の規定を同年1月1日以後同年3月31日までの間に行われた土地等又は建物等の譲渡について適用するものとする本件改正附則27条1項の規定が、憲法84条、30条から導かれる租税法律主義に違反するか否かであり、これに対する摘示すべき当事者の主張は、別紙「争点に対する当事者の主張」記載のとおりである。なお、上記の適用について「遡及適用」か否かを巡って用語上の問題がないではないが、以下においては、説明の便宜上、上記の適用のような場合を含め、施行日前の事象についても改正法令を適用する場合一般を「遡及適用」ということとする。

3-1、以下3-2に続く。
by nk24mdwst | 2009-02-14 05:25 | 租税法(日本)


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