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depressed again 3

続きです。

 (2) 本件改正附則が立法裁量を逸脱・濫用したものかどうかについて

 租税法規において、国民の課税負担を定めるについては、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかであるから、納税義務者に不利益に租税法規を変更する場合は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された措置が同目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、憲法違反となることはないと解するのが相当である。そして、当該立法措置が著しく不合理かどうかを検討するに際しては、それが厳密には納税義務者に不利益な遡及立法とはいえないとしても、不利益に変更される納税者の既得利益の性質、その内容を不利益に変更する程度、及びこれを変更することによって保護されるべき公益の性質、納税者の不利益を回避するためにあらかじめ取られた周知等の措置等を総合的に勘案すべきである。

 そこで、この観点に立って、本件改正附則の憲法適合性について検討する。
 ア 本件改正附則を含む改正措置法の立法目的について
 本件改正措置法の立法目的については、本件譲渡との関係では、税率引下げによる土地取引の活性化を促すことが低迷する我が国経済の現状に鑑みて急務とされていたことに加えて、株式に対する課税との不均衡是正の見地(ただし、納税者の生活に大きな影響を与える居住用財産の譲渡のような場合は、政策的見地から譲渡損失の損益通算等の特別の配慮を施している。)から、土地建物等の長期譲渡所得に係る損益通算をできるだけ早期に廃止する必要があったことが挙げられる。そして、本件改正附則を設けたのも、措置法の改正において、損益通算の廃止は、長期譲渡所得税率の引下げと一体の措置として実施することを予定していたところ、仮に損益通算の廃止のみの施行時期を遅らせれば、駆け込み目的の安売りによる資産デフレの助長が懸念されたことから、改正措置法31条の規定を平成16年分の所得(ママ)の課税開始時以後に行う土地等の譲渡について適用する必要性が高かったことによる。
 そうすると、本件改正附則を含む改正措置法の立法目的は正当なものということができる。
 イ 立法目的との関連における本件改正附則の措置の合理性について
 原告の主張は、要するに、改正措置法が施行される以前に認められていた土地建物等の譲渡による損失を他の所得金額の計算上、損益通算できる制度が、年度内に成立、施行された改正措置法の31条により廃止されたことにより著しい不利益を受けたものであり、また、このような不利益を受ける新たな制度(損益通算廃止)が設けられることの周知がされずに同法を年度開始時に遡って適用することを本件改正附則が規定していることから、納税義務者の予見可能性を奪うものであり、憲法84条に違反するというものである。そうすると、本件において合理性の有無が問題となる立法措置とは、①損益通算を廃止する改正措置法31条の措置及び②それを改正措置法の施行前の年度開始時以後の譲渡に適用する本件改正附則の措置ということになる。

 そこで、これらの措置が著しく合理性を欠くかどうかについて、次に検討する。
 (ア) ①の損益通算廃止措置について
 居住者に対する所得税の課税は、すべての所得を合算した金額に対して行われるのが原則である(所得税法21条1項)が、所得税法では、退職所得及び山林所得に対しては、総合課税の例外としてそれぞれ分離課税とされ(所得税法22条)、措置法においては、土地建物等の譲渡所得等に対する分離課税(措置法28条の4、31条、32条)、株式等に係る譲渡所得等の課税の特例(措置法37条の10ないし37条の15)等の総合課税に対する多くの例外が定められている。これは、所得の性質からみて、ある所得の損失を他の所得から控除するのが相当ではないとみられ、それがために総合課税の対象外とされているものである。譲渡所得については、種々の特別措置が設けられているところ、土地建物等の譲渡所得については、土地政策等の観点から所得税本則による総合課税によらず、租税特別措置として、他の所得と区分して本則の負担よりある部分は軽課し、ある部分は重課するのが相当とされることから、分離課税とされている。
 ところで、株式等に係る譲渡所得等に対する課税については、上記のとおり、措置法により、他の所得と区分して分離課税することとされているところ、利益が生じた場合には、原則として20パーセント(うち住民税5パーセント)の税率により課税され、損失が生じた場合には、当該損失の金額は生じなかったものとみなされている(措置法37条の10第1項)。他方、同じく分離課税とされる土地建物等の譲渡所得に対する課税については、株式等に係る譲渡所得等と同様に、資産の譲渡に係る課税であり、措置法により分離課税とされているにもかかわらず、利益が生じた場合には、26パーセント(うち住民税6パーセント)の税率による分離課税を行い、他方、損失が生じた場合には、最高税率50パーセントで総合課税の対象となる他の所得の金額から控除される損益通算が認められていたものであり、これが不均衡であり、適正な租税負担の要請を損なうおそれがあるとの指摘がされていた。
 そうすると、土地建物等の長期譲渡所得について損益通算の制度を廃止することは、同所得に分離課税方式が採られていたこととの整合性を図り、かつ、損益通算がされることによる不均衡を解消して適正な租税負担の要請に応えるものとして、合理性があるということができる。
 そして、平成16年度税制改正における譲渡所得についての損益通算の廃止は、長期譲渡所得の税率引下げ等の措置と相まって、使用収益に応じた適切な価格による土地取引を促進し、収益性の高い土地の流動性を高め、もって、土地市場を活性化させ、これにより土地価格の下落に歯止めがかかることが期待されたものであり、その目的に照らして、損益通算廃止措置は合理性を有するものと考えられる。もっとも、土地建物等の譲渡の場合は、株式等の資産の譲渡の場合とは異なり、居住用不動産の買換え等の必要から譲渡が行われる場合の損失について一定の政策的配慮が必要であるとみられるところ、この点については、上記のとおり、改正措置法において手当が施されており、したがって、上記合理性は確保されているものということができる。
(イ) ②の本件改正附則の措置について
 原告が特に問題とする点は、上記(ア)の点よりもむしろ損益通算廃止措置を既に本件譲渡がされた日よりも前の年度開始日に遡って適用することを内容とする本件改正附則の合理性にあるものと解される。
 そこで、この点の合理性について次に検討する。
 原告は、本件改正附則の適用により、既に行った本件譲渡による多額の損失を給与所得等の所得の金額の算定上、損益通算することができないことになり、損益通算がされた場合に受けられる多額の税金還付が受けられないという予期しない不利益を受けていることは明らかである。このような不測の不利益を納税者にもたらさないためにも、既存の損益通算制度を廃止する租税法規は、その施行前に納税者に予測可能性をもたらすものである必要がある。本件の場合、不動産譲渡による損失を他の所得の金額の計算上、損益通算する制度の問題性については、平成16年税制改正の数年前ごろから政府税制調査会において既に度々指摘されていたものであり、これが自由民主党の決定した平成16年度税制改正大綱の中に損益通算制度廃止という内容で盛り込まれた。そして、その大綱の内容は、平成15年12月18日の日本経済新聞に掲載され、その周知の程度は完全なものとはいえないまでも、平成16年分所得税から長期譲渡所得について損益通算制度適用されなくなることを納税者において予測することができる状態になったということができる。したがって、平成16年1月1日からの土地建物等の譲渡時を基準とすると、確かに切迫していたことは否定できないものの、同日以降の土地建物等の譲渡について損益通算ができなくなることを納税者においてあらかじめ予測することができる可能性がなかったとまではいえない。加えて、上記のとおり、所得税は期間税であること等から、暦年の終了時に納税義務が生じるものであり、その前においては、たとえ当該年分の所得税の課税期間が開始していたとしても、従前の租税法規の内容が改正されて年度開始時に遡って適用される可能性がないとはいえず、特に本件の場合のように、税制大綱が年度前に公表され、年度開始後1箇月程度で改正措置法案が国会に提出されて可決成立しているのであり、このような場合に改正法が年度開始時にさかのぼって適用される可能性は否定できない。そして、現にこれまでもそのようなケースが決して稀ではなかったことをも勘案すると、所得税のような期間税の場合、年度が開始した後は年度開始時に遡って租税法規が納税者に不利益に変更される可能性が立法の必要性如何によってはあり得ることを納税者としても全く予測できないとはいえないと考えられる。

 そこで、本件改正附則が成立時にそれまで認められていた損益通算の制度を、既に課税期間が開始した平成16年1月1日にまで遡って適用しなければならないとするまでの合理性又は必要性があるかどうかについて考える。上記のとおり、本件改正附則の立法目的は、土地取引の活性化と株式取引等との不均衡是正の見地から、従来認められていた合理的とはいえない損益通算の制度の廃止等と長期譲渡所得税率引下げをパッケージとして、できるだけ早期に実施する必要があったことに加えて、これらの実施を翌年度まで遅らせれば(少なくとも改正措置法施行後9箇月間は実施できないことになる。)、その間に節税をねらいにした不当な低価による土地取引が横行しかねず、これが資産デフレをもたらすとの懸念によるものであり、特に後者の点は、現にその与党である自民党の平成16年度税制改正大綱が日本経 済新聞に報道された直後ころから、年内の駆け込み土地売却を勧める税理士等の提案がインターネットのホームページに掲載される等の動きがみられたことからも、単なる懸念にとどまらず現実性を帯びていたものである。そうすると、本件改正附則のとおり、損益通算を廃止する等を内容とする改正措置法を成立・施行前の平成16年1月1日に遡って適用する合理性・必要性を肯定することができる。そして、その公益性と原告等の納税者にもたらされる不利益とを比較した場合、明らかに納税者の不利益が上回るということはいえず、少なくとも、本件改正附則の内容が立法目的に照らして著しく不合理であるということはできない。
 したがって、本件改正附則は憲法84条には違反しないから、その違反をいう原告の主張は理由がなく採用することはできない。そうすると、本件においては、本件改正附則の適用があるから、本件通知処分は適法である。

第4 結論
 よって、原告の本訴請求には理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(平成20年2月1日 口頭弁論終結)
(千葉地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 堀内明 裁判官 上田哲)
(裁判官西田昌吾は転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 堀内明)

租税は専門的だからといってしまうと司法の租税に対する監視の役割の放棄以外の何物でもないのだと思いますけどね。
by nk24mdwst | 2009-01-20 15:32 | 租税法(日本)


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