昨日掲載した東京高裁12月20日判決の原審の千葉地裁平成20年5月16日判決です。同じくTAINS(タインズ)からのものです。
千葉地方裁判所平成19年(行ウ)第15号通知処分取消請求事件(棄却)(控訴)(TAINS Z888-1331) 【遡及適用の合憲性/譲渡損失の損益通算を不可とする税制改正】 判 決(平成20年5月16日言渡) 原 告 ■■■■■■■ 被 告 国 同代表者法務大臣 鳩 山 邦 夫 同指定代理人 〇〇〇〇 同 〇〇〇〇 同 〇〇〇〇 同 〇〇〇〇 同 〇〇〇〇 同 〇〇〇〇 同 〇〇〇〇 同 〇〇〇〇 同 〇〇〇〇 処分行政庁 千葉西税務署長 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 処分行政庁が平成18年2月17日付けで原告に対してした平成16年分所得税の更正請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 第2 事案の概要 本件は、原告が、平成16年4月1日に施行された改正後の租税特別措置法31条1項後段の規定(それまで認められていた土地建物等の譲渡損失を他の所得所得(ママ)の金額から控除することを廃止する旨の規定)を同年1月1日以後に行う同条1項に規定する土地等又は建物等の譲渡について適用する旨の平成16年法律第14号(所得税法等の一部を改正する法律)附則27条1項が遡及立法に当たり、憲法84条に違反すると主張して、処分行政庁が同附則を原告が平成16年1月30日にした長期譲渡所得税対象土地の譲渡に適用して、その譲渡による損失の損益通算を認めず、原告の平成16年分所得税の更正請求に対し更正すべき理由がない旨の通知処分をしたのは違法であるとして、その取消しを求めている事案である。 1 関係法令の定め等 (1) 所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)69条1項は、損益通算につき、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除すると定めている。 (2) 租税特別措置法(ただし、平成16年法律第14号による改正後のもの。以下「改正措置法」という。また、租税措置法一般を呼称するときは、単に「措置法」という。)31条1項前段は、個人が、その有する土地若しくは土地の上に存する権利(土地等)又は建物及びその附属設備若しくは構築物(建物等)で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得(以下「長期譲渡所得」という。)については、他の所得と区分して、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額に対し、長期譲渡所得の金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税(ただし、住民税5パーセントを含めれば20パーセントの税率)を課する旨規定している。 また、同項後段は、同項前段の場合において、土地等又は建物等(以下「土地建物等」という。)の譲渡所得の金額の計算上生じた損失があるときは、所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかったものとみなす(すなわち、損益通算及び繰越控除を認めない。)旨規定している。 さらに、改正措置法31条3項2号は、同条1項の規定の適用がある場合の所得税法69条の適用については、①同条1項中「譲渡所得の金額」とあるのは改正措置法31条1項に規定する譲渡による譲渡所得がないものとして計算した金額とする旨、②「各種所得の金額」とあるのは同項の長期譲渡所得の金額を除いた金額とする旨規定して、総合課税の対象となる譲渡所得及び他の所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合でも、当該損失は、同項の長期譲渡所得の金額から控除することはできないこととしている。 なお、上記改正前の租税特別措置法(以下「改正前措置法」という。)31条1項は、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、所得税法69条の規定を適用し、他の各種所得の金額との損益通算を認める旨規定している。 (3) 改正措置法附則第27条1項(以下「本件改正附則」という。)は、「新租税特別措置法(改正措置法を指している。)第31条の規定は、個人が平成16年1月1日以後に行う同条第1項に規定する土地建物等の譲渡について適用し、個人が同日前に行った旧租税特別措置法第31条第1項に規定する土地建物等の譲渡については、なお従前の例による。」と規定している。 (4) 改正措置法は、31条1項後段の規定により、土地建物等の譲渡損失の損益通算を原則として認めないこととした上で、居住用財産を譲渡した場合の譲渡損失の金額の一部について、一定の要件の下に他の所得との損益通算及び繰越控除を認め(「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」。改正措置法41条の5第1項、同第7項1号)、あるいは、居住用財産を譲渡して買換えをせずに借家等に住み替える等の場合に、一定の要件の下に、当該譲渡によって生じた純損失の金額の一部について他の所得との損益通算及び繰越控除を認める(「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」。改正措置法41条の5の2第1項、同第7項1号)こととしている。 (5) 改正措置法附則27条2項及び3項は、施行日前に死亡した者、施行日前に平成16年分の所得税につき所得税法127条(年の途中で出国する場合の確定申告)の規定による申告書を提出した者及び施行日前に同年分の所得税につき通則法25条の規定による決定を受けた者の同年分の所得税に係る措置法31条の規定を適用するに当たっては、土地建物等の譲渡による所得以外の他の所得との損益通算及び長期譲渡所得の100万円特別控除については、従前どおり適用する旨規定している。 (6) 本件改正附則と同様に暦年の途中から施行されながら、適用がその暦年の初日とされた法令の例 ア 昭和27年の税制改正により、退職所得が損益通算の対象外とされたときも(昭和29年の税制改正まで)、当該改正法(昭和27年法律53号)は昭和27年4月1日から施行されている(同法附則1項)が、同年分以後の所得税について適用されている(同法付則22項)。 イ 昭和36年の税制改正により、趣味・娯楽の資産の譲渡による所得等の喪失について損益通算が廃止されたときも、当該改正法(昭和36年法律35号)は昭和36年4月1日から施行された(同法附則1項)が、同年分以後の所得税について適用されている(同法附則2項)。 ウ 昭和37年の税制改正により、生活に通常必要でない資産についての災害に係る雑損失と譲渡所得以外の所得との損益通算が廃止されたときも、当該改正法(昭和37年法律44号)は昭和37年4月1日から施行された(同法付則1条)が、同年分以後の所得税について適用されている(同法付則2条)。 エ 現行所得税法(昭和40年法律33号)においても、昭和43年の税制改正により、雑所得の金額の計算上生じた損失と他の所得との損益通算が廃止された際には、当該改正法(昭和43年法律21号)は昭和43年4月20日から施行された(同法付則1条)が、同年分以後の所得税について適用されている(同法付則2条)。 オ 改正法の施行日を含む年分の所得税について改正法が適用されているのは損益通算に係る場合だけでなく、所得税の課税対象への追加(昭和36年分以後の所得税に適用された、事業譲渡類似の有価証券の譲渡による所得等を譲渡益非課税から課税に変更措置)や各種控除の縮減・廃止(昭和55年分以後の所得税に適用された、給与所得控除率引下げ、平成12年分以後の所得税に適用された、年少扶養控除の廃止等、平成15年分以後の所得税に適用された、長期所有上場株式等に係る100万円特別控除の廃止)についても、同様に改正法の施行日を含む年分の所得税に適用されている。 2 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は争いがないか明らかに争いがない。) (1) 原告は、平成5年4月4日、■■■■■■■■■■■■■■の宅地(以下「本件土地」という。)を4300万円で買い受け、これを平成16年1月30日、1750万円で譲渡する旨の契約を締結し、同年3月1日、本件土地を買受人に引き渡した(以下、この譲渡行為を「本件譲渡」とい。)。その結果、2500万円余の譲渡損失(以下「本件譲渡損失」という。)が生じた(甲1ないし4、乙1)。 (2) 原告は、平成17年9月15日、給与所得、雑所得及び株式等に係る譲渡所得を平成16年分の所得と記載した同年分の所得税の確定申告書を処分行政庁に提出した。 (3) 原告は、平成17年11月16日、本件譲渡損失の金額は他の所得と損益通算すべきであるとして、これに基づき税額計算した結果、還付されるべき税金136万9400円が存在するとして、更正の請求書を提出したが、処分行政庁は、原告に対し、平成18年2月17日付けで、更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした(甲2、乙2)。 (4) 原告は、平成18年2月022日、処分行政庁に対し、本件通知処分を不服として異議申立てをしたが、処分行政庁は、同年4月21日付けで、これを棄却する決定をした。 原告は、これを受けて、同月26日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、同年9月19日付けで、これを棄却する裁決を行った。 本件通知処分、上記異議申立棄却決定及び上記裁決は、いずれも、本件譲渡には改正措置法31条の適用があり、そうすると、本件譲渡損失は、その他の所得の金額の計算上、生じなかったものとみなされること、すなわち、同損失については損益通算の処理ができないことを理由とするものであり、同法の適用を認める限り、本件通知処分のとおり、本件においては更正すべき理由がないことになる(甲2ないし4)。 原告は、平成19年3月15日、本訴を提起した。 3 争点 本件改正附則は、憲法84条に違反するか。 つづく
by nk24mdwst
| 2009-01-20 15:17
| 租税法(日本)
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