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「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた『中期プログラム』」(平成20年12月24日 閣議決定)を少し、検討してみます。
Ⅰ.景気回復のための取組
(1) 「今年度を含む3年以内の景気回復を最優先で図る。」
景気回復期間中に、減税措置及び定額給付金を税制抜本改革を前提に時限的に行うことを含め、当面、総額75 兆円規模の景気対策(安心実現のための緊急総合対策、生活対策及び生活防衛のための緊急対策)を着実に実施する。
定額給付金の有効性は、誰もが疑問を持っています。将来の増税が見込まれる状況では貯蓄に回る可能性が高いです。個人消費刺激策は他にあるはずです。実績のある、定率減税では、なぜだめなのでしょうか。

国民の生活不安は雇用の不安定化と社会保障負担の引上げと給付の切下げが背景だと思います。

減税措置についてですが
・住宅ローン減税拡充に効果ありか。一般的に持ち家政策は中間層を対象として景気対策として効果があるとされますが、政府案の借入金残高限度額の引上げ(2,000万円→5,000万円)の恩恵を受けるのは誰か。高額マンションの在庫処分策なのかと?!
・09年、10年に取得した土地を5年超保有した場合、売却益から1,000万円を控除する制度を利用できるのは誰か?将来のインフレに対するヘッジにすぎないかと思います。
・配当所得、上場株式等売却益に対する課税軽減の延長ですが、世界的な株式市場の価格暴落は一国の税制によって補えるものではないでしょう。
・12年から少額上場株式等投資のための非課税制度創設(非課税口座で運用する100万円までの上場株式等からの配当、売却益には10年間、所得税、住民税を課税しない。)・・・少額預貯金非課税制度を活用したのが資産家だったのと同じ効果があると考えられます。

損益通算制度の対象範囲を広げ、配当所得から上場株式の売買損失を控除できる制度の導入・・・日本的二元的所得税の導入・・・民主党も主張しています。

結局、新自由主義的な税制への方向転換を変えるつもりがないことになりますが、この政策方針は、世界中で既に破綻しています。
・海外所得非課税制度の創設 現行の全世界所得課税・外国税額控除方式に変え、海外子会社があげた利益の配当に対して益金不算入とする制度の恒久的導入。海外子会社の内部留保残高17兆2,000億円(2006年度末、経済産業省)あるとされますが、この手のトリクル・ダウン理論を相変わらず信奉しているのですね。
(2) あわせて、世界の潮流変化を先取りした経済成長の実現に向け、日本の底力を最大限に発揮させる成長戦略を具体化し、推進する。
 新自由主義経済が破綻し、世界各国の政府が方向転換を図ろうとしている中で敢えて従来の方針を変えてません。
ニュー・ヨーク・タイムズが社説で所得税の累進強化(最高税率引上げ)、LLP等を使った高額所得者の租税回避に対する課税強化を訴えている(2009.1.5)のと好対照です。
Ⅱ.国民の安心強化のための社会保障安定財源の確保
1.堅固で持続可能な「中福祉・中負担」の社会保障制度の構築
急速に進む少子・高齢化の下で国民の安心を確かなものとするため、我が国の社会保障制度が直面する下記の2つの課題に同時に取り組み、堅固で持続可能な「中福祉・中負担」の社会保障制度を構築する。
原則1.中福祉・中負担の社会を目指す。
「中福祉」の具体的な定義はないが、社会保障給付を現行の水準にとどめつつ「『中福祉』のほころびに適切に対応」するというものである。社会保障に関しては、現行の水準よりも下がるものもある 。
「社会保障制度の財源(保険料負担、公費負担及び利用者負担)のうち、公費負担については、現在、その3分の1程度を公債に依存して」いる「現状を改め、必要な給付に見合った税負担を国民全体に広く薄く求めることを通じて安定財源を確保する」としています。社会保障制度の財源は国民に広く薄く求める→消費税であると明言しているわけです。
原則2.安心強化と財源確保の同時進行
別添の工程表で示された改革の諸課題を軸に制度改正の時期も踏まえて検討を進め、確立・制度化に必要な費用について安定財源を確保した上で、段階的に内容の具体化を図る。
社会保障制度の制度改正を行う前に「安定財源を確保」し、内容を具体化する、つまり、まず、消費税の増税が先行するということです。
原則3.安心と責任のバランスの取れた財源確保
(1) 社会保障安定財源については、給付に見合った負担という視点及び国民が広く受益する社会保障の費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税を主要な財源として確保する。これは税制抜本改革の一環として実現する。
(2) この際、国・地方を通じた年金、医療、介護の社会保障給付及び少子化対策に要する公費負担の費用について、その全額を国・地方の安定財源によって賄うことを理想とし、目的とする。このため、2010 年代半ばにおいては、基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げに要する費用をはじめ、上記2.に示した改革の確立・制度化及び基礎年金、老人医療、介護に係る社会保障給付に必要な公費負担の費用を、消費税を主要な財源として安定的に賄うことにより、現世代の安心確保と将来世代への責任のバランスを取りながら、国・地方の安定財源の確保への第一歩とする。
国税消費税と地方税消費税を、さらに社会保障給付と少子化対策の費用とを書き分けています。ここで、地方自治体の財源が道州制の導入とも関連して問題となってきます。具体的には、地方消費税の譲渡割(現行25%)の引上げの検討も行われています。この際、法人事業税の全廃に伴う代替財源としての地方消費税であり、教育費等の財源に関しても消費税によるということだと考えられます。消費税の税収は社会保障費の公費部分よりも大きくなることになります。

消費税の必要増税額についてですが、社会保障の公費負担額(国と地方の合計)は約27兆円、消費税収入(地方消費税を含む。)は、約13兆円→公費負担額を賄うためには、税率を倍以上に、つまり10%以上にする必要があることになります。

社会保障国民会議座長 吉川 洋東大教授が経済財政諮問会議に示した試算(中期プログラムの下敷き?!)では、2015年度の社会保障給付費(公費負担分)43.5兆円~44.3兆円となり消費税に換算すると13.2%~13.4%になります 。
Ⅲ.税制抜本改革の全体像
経済状況の好転後に実施する税制抜本改革の3原則
原則1.多年度にわたる増減税を法律において一体的に決定し、それぞれの実施時期を明示しつつ、段階的に実行する。
原則2.潜在成長率の発揮が見込まれる段階に達しているかなどを判断基準とし、予期せざる経済変動にも柔軟に対応できる仕組みとする。
原則3.消費税収は、確立・制度化した社会保障の費用に充てることにより、すべて国民に還元し、官の肥大化には使わない。
1.税制抜本改革の道筋
(1) 基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げのための財源措置や年金、医療及び介護の社会保障給付や少子化対策に要する費用の見通しを踏まえつつ、今年度を含む3年以内の景気回復に向けた集中的な取組により経済状況を好転させることを前提に、消費税を含む税制抜本改革を2011 年度より実施できるよう、必要な法制上の措置をあらかじめ講じ、2010 年代半ばまでに段階的に行って持続可能な財政構造を確立する 。
「2011年度より実施できるよう、法制上措置をあらかじめ講じる」というのは、2009年度法改正に盛り込むという意味です。小泉内閣の骨太方針2006「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006 について」(平成 18 年7 月7 日閣 議 決 定)の路線を踏襲することを言明しています。
(2) 消費税収が充てられる社会保障の費用は、その他の予算とは厳密に区分経理し、予算・決算において消費税収と社会保障費用の対応関係を明示する。
消費税の社会保障目的税化・・・個人的には、目的税化は必ずしも正しくないと考える。財政学の教科書的にいえば、財政の硬直化につながると考えます。ただし、財政拡大の歯止めがなくなるという消費税増税に対する反論に対しては有効な議論でしょうが。
2.税制抜本改革の基本的方向性
(1) 個人所得課税については、格差の是正や所得再分配機能の回復の観点から、各種控除や税率構造を見直す。最高税率や給与所得控除の上限の調整等により高所得者の税負担を引き上げるとともに、給付付き税額控除の検討を含む歳出面も合わせた総合的取組の中で子育て等に配慮して中低所得者世帯の負担の軽減を検討する。金融所得課税の一体化を更に推進する。
最高税率や給与所得控除の上限見直しにより所得税による再配分の方向を示しているようです。しかし、金融所得課税の一体化を更に推進するといっているので、利子・配当所得、上場株式等の譲渡所得、デリバティブ取引による雑所得等を金融所得として一体分離課税し、これらの間の損益通算を認めるという方向性に変化はないということです。

金融所得に関しては累進課税が及ばないのですから所得の再配分が行われるのは勤労性所得(給与所得、事業所得)が対象ということです。各種控除の見直し→縮減ということは、結局、年金所得者を含む低所得者に対する増税でしかないと感じます。

給付付き税額控除(民主党も提唱している。)は、勤労性所得を持つものに限定され、さらに、給付には所得制限が設けられるので、これによる給付額は所得税増税額の枠の中に納まってしまいます。

給付付き税額控除、金融所得一体課税は、納税者全てに付番することが前提になること画必要だと一般にいわれていることに留意(民主党も同様の主張)しなければなりません。
(2) 法人課税については、国際的整合性の確保及び国際競争力の強化の観点から、社会保険料を含む企業の実質的な負担に留意しつつ、課税ベースの拡大とともに、法人実効税率の引下げを検討する。
課税ベースがどのように拡大されるのか不明なのでどのような効果があるのかわかりません。ただ、国際競争力強化の観点といっている以上、法人税の実質増税は考えられず、さらに、社会保険料の企業負担分について言及していることにも留意が必要でしょう。
(3) 消費課税については、その負担が確実に国民に還元されることを明らかにする観点から、消費税の全額がいわゆる確立・制度化された年金、医療及び介護の社会保障給付と少子化対策に充てられることを予算・決算において明確化した上で、消費税の税率を検討する。
その際、歳出面も合わせた視点に立って複数税率の検討等総合的な取組みを行うことにより低所得者の配慮について検討する。
消費税の目的税化は規定路線になった?!仮に社会保障財源として消費税の全てを充てるとして、国民が受益する社会保障の程度が現在を上回ることがないことは明らかであることをどう考えるかです。
複数税率の施行の前提は、インボイス導入、事業者番号制度・・・納税者番号制度とどう連動するのか・・という問題があります。なお、民主党は、インボイス導入を主張していますが複数税率には否定的で、消費税を税額控除によって調整する案です。
(5) 資産課税については、格差の固定化防止、老後扶養の社会化の進展への対処等の観点から、相続税の課税ベースや税率構造等を見直し、負担の適正化を検討する。
相続税の課税方式の変更に関しては、一歩後退した様に見えますが、不明です。
(6) 納税者番号制度の導入の準備を含め、納税者の利便の向上と課税の適正化を図る。
前述のように、今度の抜本的税制改革が打ち出す方向性の中では、納税者番号制度の導入が不可避とされるものが並んでいます。
問題としては、どの番号を納税者番号とするかです。

納税者の利便の向上と課税の適正化・・・電子申告と調査の強化?なお、民主党提案の歳入庁構想です。国税、社会保険料等の一括徴収です。
(7) 地方税制については、地方分権の推進と、国・地方を通じた社会保障制度の安定財源確保の観点から、地方消費税の充実を検討するとともに、地方法人課税の在り方を見直すことにより、税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系の構築を進める。
法人事業税撤廃→地方消費税譲渡割の税率引上げが検討されるということなのでしょう。
Ⅴ.中期プログラムの準備と実行
(2) 2009 年度(平成21 年度)の税制改正に関する法律の附則において、前記の税制抜本改革の道筋及び基本的方向性を立法上明らかにする。
平成21年度税制改正に関する法律の附則で、将来の消費税率の引上げを含む税制改革の方向性を盛り込むという無茶苦茶な話が可能なのかということです。

民主党のアクションプログラムを参照してみると共通点が多いのに驚きます。
by nk24mdwst | 2009-01-18 16:11 | 租税法(日本)


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